リーチ動作


 

肩関節疾患の最終目標と言っても過言ではないのがリーチ動作の獲得です。実際の日常生活ではただ肩を挙上するという場面は少なくて「遠くの物を手を伸ばして取る」「車の運転席から後部座席の荷物を取る」「電車のつり革を握る」みたいに目的動作を構築するために肩を動かす、のが通常です。なので可動域獲得の先にリーチ動作があることを意識するのは大事ですよね。あとは、そもそも肩関節に障害が起こってしまった背景は、リーチ動作で全身が上手く使えていないという可能性が高いです。そう言った意味でも再発予防を見越して介入していくのは重要ですよね。

 

<構成要素>

リーチ動作の目的は「最小の労力で効率よく目標物と接触すること」。動作を定義するなら「手部が目標物まで最短距離で移動する動作」です。

挙上動作などとは性質が異なっていて、各関節に負担がかからないように、そしてスムーズに目的が達成されるように、全て無意識に全身を使うことで構築されています。そして実はリーチ動作って、いっぺんに行われてる訳ではなく、3つのフェーズに分けられます。

 

phase①ターゲティング

目標物を見ることで、フィードフォワード作用が働きます。つまり、目標物と自分の身体の距離感や、その間にどんな障害物があるのか、目標物の形状からどんな触れ方が良いのかなど、感覚器からの様々な情報をもとにリーチ動作の戦略を立てるフェーズです。

例えば、「コップを持つときのリーチ動作」と「教科書を持つ時のリーチ動作」は手の形が違いますよね。コップなら前腕中間か回外だし、教科書なら回内すると思います。手を伸ばしてから、「あ、コップだからこの持ち方だよね。」なんて思わない。コップを見た時点で回外することは決まっていて、それに順応するように各関節が必要な角度を取ります。

 

phase②セッティング

ターゲティングで目標物との接触戦略を立てたら、次にセッティングが行われます。具体的には、手関節背屈+前腕回内回外+肘関節屈曲+肩関節回旋+体幹回旋・屈伸で手部を目標物に向ける動きです。イメージ的にはスプレーを目標物に向ける感じですかね。つまり、この段階で「あとは肘を伸ばすだけ」という状況を作り出すわけですね。

このフェーズは結構重要で、上記の関節運動がどれか阻害されている場合には、他の関節運動で代償しないといけません。例えば、前腕の回内回外が制限されているとすれば、肩関節や肩甲骨の位置を変えて前腕を適切な位置に無理やり持っていこうとします。それが何度も繰り返し起これば腱板組織にもストレスがかかるのは当然の結果と言えます。特に肩関節は自由度が高いので、最も代償しやすい関節と考えられます。

 

phase③リーチング

セッティングの次にはいよいよリーチングです。このフェーズでは文字通り上肢のリーチが起こります。構成要素は肘関節伸展(+胸郭拡張+骨盤傾斜+股関節戦略+足関節戦略)です。基本的には肘関節の伸展で完結しようとしますが、物体が上肢の可動域よりも遠くに位置している場合は、重心シフトによってリーチ範囲を拡大させます。

例えば椅子に座って外側にある物に対してリーチする場合、肘伸展で届かなければ、リーチ側の胸郭を拡張し肩甲骨を外側に寄せてリーチ範囲を伸ばす運動が起こります。それでも届かなければ、反対側の骨盤を挙上させ、リーチ側の坐骨結節に重心を移動させてさらにリーチ範囲を伸ばします。

このように全身を使うことで日常生活レベルでのリーチ動作は構築されている訳ですね。

 

<障害されると、、、>

リーチ動作は全身で行う動作なので、障害されていてもその発見が難しい(代償すれば動作自体は結果的にできてしまう)。しかし肩関節周囲炎をテーマに考えた時、発症前に肩関節に負荷が蓄積していたという事実は間違いありません。なので肩関節自体の可動域や組織の柔軟性が獲得できたのであれば、再度負荷が蓄積しないようにリーチ動作に必要な運動を構築し、適応させていくことが重要です。

「以前右肩が五十肩になって、その時は勝手に治ったんですけど、今度は左肩が痛くなって放っておいたら治るかと思ったらどんどん悪化してきたんです。」って訴える方が多くないですか?その背景には肩関節に負荷が蓄積する要因を排除しきれていないという事実があるので、日常生活で最も頻繁に行う上肢運動であるリーチ動作を再構築することは必須と言えます。

 

・手関節背屈が障害されると

手関節背屈が制限されると、肩関節外転作用が過剰に働いてしまいます。本来であれば手関節を背屈すると手指屈筋群にテンションがかかります(テノデーシスライクアクション)。これによって手指屈筋群が機能しやすくなり、把持への負担が軽減されるんですね。しかし、この機能が使えなくなると肩関節の筋で物体を保持しないといけなくなるので重さが肩関節に負荷されすくなってしまいます。

あとは前腕も回内優位になってしまうので、連鎖的に肩関節は内旋し外転位となります。すると肩関節後方支持組織にストレスが蓄積するので痛みを誘発しやすくなってしまう訳です。

 

・前腕回内回外が障害されると

前腕の回内・回外はそれぞれ肩関節の内旋・外旋の連鎖を生みます。前腕の回内・回外どちらかが障害されると、肩関節の腱板組織に負荷が蓄積されます。例えば回外が制限された場合には、回外運動を代償するために肩関節の外旋筋群が優位に活動せざるを得ません。すると外旋筋群の硬さが生じるので、筋組織自体の痛みや骨頭前方偏移のリスクが助長されますよね。その場合には腱板組織の柔軟性を獲得した上で、前腕回外の運動が適切に行えるようにアプローチすると負担のかからないリーチ動作が構築されます。

 

・肘屈曲が障害されると

肘の屈曲は腕橈骨筋が重要になってきます。主動作は上腕二頭筋なのですが、上腕二頭筋は回外の作用を含むので、前腕中間・回内でのリーチに関しては腕橈骨筋の活動が必要となります。腕橈骨筋が硬くなって機能しにくい状態に陥ると、上腕二頭筋の負荷が増大します。すると、上腕二頭筋の筋腹の硬さ・遠位方向への牽引力が増加することで上腕二頭筋長頭腱炎のリスクが高くなります。あとは屈曲挙上で痛みが出現する場合も腕橈骨筋の硬さが影響しているケースがあります。

 

・肘伸展が障害されると

リーチングのフェーズで行われる肘関節伸展が制限された場合に問題となるのは、肘屈曲位でのリーチ動作です。そもそも肘伸展でのリーチ動作のメリットは、物体ー前腕ー上腕骨ー肩甲棘のラインを一直線に構成して、肩関節の安定性を維持した状態で物体と接触できることです。これによって支点となる肩関節への負担を減らすことができます。この機能が破綻して肘屈曲位でリーチしようとすると、上腕骨が通常よりも下制するので下方支持組織の伸張性が低下したり、上方支持組織にストレスが蓄積しやすくなります。また、それを代償しようとして肩関節を内旋・外転させてリーチしようとします。この場合だと後方支持組織にストレスが蓄積しやすくなってしまいます。実際に上肢屈筋群の硬さから肩の痛みを引き起こしている症例は多いです。

 

・体幹回旋屈曲が障害されると

体幹の運動はセッティングでのフェーズで起こりますが、これは肩甲骨や上肢のセッティングの補助として働きます。なので体幹機能が制限されている状態では過剰な可動域を要求されるので肩関節の痛みを誘発します。特に肩関節の回旋動作は体幹の回旋が起これば最小の可動域で完結できるので、負荷を一気に軽減させることができます。例えば側方にリーチしようとするときには、上腕骨頭の前方偏移が生じやすくなりますが、体幹が回旋してくれると、肩甲骨の運動も最小に抑えられるので、骨頭前方偏移のリスクも大幅ひ減らすことができます。

 

・重心制御が障害されると

重心移動が必要となるのは基本的にリーチが届かない時、上肢の運動だけでは目標物に到達できない状況ですね。しかし、人間は労力を最小限に抑えた状態でリーチ動作を行うので、上肢を頑張って最終域までリーチさせるよりも、骨盤の位置をちょっと変化させてリーチする方が効率が良いです。なので、日常生活においては重心移動を想像以上に頻繁に行っています。なので上肢だけでリーチする場合と重心制御をうまく活用してリーチする場合では仕事量に大きな差が開きます。もちろん、重心制御を使った方が肩関節への負荷は減少します。肩関節周囲炎を罹患している症例であればなおさら、重心制御を再構築させる必要がありますね。

 

<評価>

 

<アプローチ>

 

 

 

 

 

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